15年ほど前、雨の日に履く靴を探していた。長靴でもよかった。でも、雨の日はただでさえ気分が沈む。だからこそ足元だけは好きなものにしたかった。防水性があって、なおかつ手元に置いておきたいと思えるもの。色々と調べるうちに、L.L.BeanのBean Bootにたどり着いた。

L.L.Beanのビーンブーツとは

ビーンブーツが生まれたのは、1912年のことだという。メイン州に暮らしていたレオン・レオンウッド・ビーン(Leon Leonwood Bean)は、ハンティングから帰ってきたとき、足がひどく濡れていた。それが出発点だったとされている。防げる靴があればという、シンプルな問いから始まっている。

彼が考えたのは、ゴム製のソールに革のアッパーを縫い合わせた組み合わせだった。当時のゴム長靴は重くて扱いにくく、革靴は水に弱かった。その二つの弱点を一足で解決しようとした。最初の100足を売り出したところ、90足が縫い目の不具合を理由に返品されてきた。ビーンは全額を返金し、作り直した。失敗したものを全部引き受けた。そういうやり方だったなのだという。

この話が好きなのは、完璧な出発点ではなかったというところだ。

ビーンが店を立ち上げたのも同じ年で、メイン州フリーポートに小さなカタログ通販の会社を始めた。ハンターや釣り人に向けた用品を、自分がフィールドで試したものを中心に扱うという形で。「自分が使わないものは売らない」という姿勢が、このブランドの原型になっていった。

メイン州の工場で今も手縫いされている

Bear River, North Newry, ME. ca. 1905 / Hugh C. Leighton Co. / Public Domain

ビーンブーツはその後も少しずつ改良された。1947年には、雪や泥でも滑りにくいチェーントレッドのソールが加わった。連鎖状の溝が、ビーンブーツの見た目の一部になっていった。日本には1970年代半ばから入りはじめ、アウトドアブームとアメカジの波が重なった80年代に広く知られるようになっていったとされる。

メイン州には岩だらけの急流と針葉樹の深い森が広がっている。そういう場所にフィールドを持つ人間にとって、足をドライに保つことは切実な問題だったのだと思う。ビーンが感じた不快感は、特別なものではなかった。

今もメイン州の工場で、ゴム底と革のアッパーは手縫いで仕上げられているのだという。何十年も変わらない工程をそのままにしているのは、特別な理由があるというより、そのやり方が一番確かだからというだけなのかもしれない。ゴムと革をつなぐ境界は縫い目によって保たれていて、その縫い目だけが水とブーツの内側を隔てている。

L.L.Beanは今では大きなアウトドアブランドになっているが、ビーンブーツだけは1912年から続く基本構造を変えていない。ゴムと革を縫い合わせる。その一点においては、何も変わっていない。

ダークブラウンのクリームを入れながら

自分のはダークブラウンで、革の部分にクリームを入れながら育てている。使い込むほどに色が深まって、ゴム底との境界がいくらか馴染んでくる。新品のときのきっぱりした感じとは違う、なじんだ感じが出てくるのが好きで、そこに向かうつもりでクリームを入れている。長く持つものを手入れしながら使うという楽しみは、こういうものにしかないと思う。

雨の日だけ引っ張り出すわけじゃないけれど、雨が降ると自然と手が伸びる。雨の日はどうしても気分が落ちる。でもこのブーツを履くと、なんかそれでいい気がする。暗い空と、濡れた道と、足元は好きなもの。それで十分な感じがする。

110年ほど前、メイン州でハンティングから帰ってきた男が「足が濡れた」と感じた。15年ほど前、雨の日の靴を探していた自分がいた。同じことを考えていた人間が、時間と場所を超えて、同じ一足のところで繋がっている。そういうことがなんかいいなと思う。