白いアルミのパネルに、グレーのノブ。左端にはグリーンのスイッチ。

Braun CSV 1000。HiFiステレオアンプだ。1965年発表のデザイン、ちょうどボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」と同い年だが、今も現役だ。

ディーター・ラムスとグリーンのスイッチ

デザインを手がけたのはDieter Rams(ディーター・ラムス)。1955年からBraunのデザインチームに加わり、後に主席デザイナーとなったドイツ人デザイナーだ。「良いデザインの10原則」で知られ、AppleのJony Ive(ジョニー・アイブ)をはじめ後世の多くのデザイナーに影響を与えた。BRUTUSもかつて「20世紀のデザインを変えた男」として特集している。

彼の原則のひとつに「デザインは可能な限り少なく(as little design as possible)」というものがある。CSV 1000のフロントパネルはその体現で、シルバーとグレーだけで構成されたパネルの中に、グリーンだけが存在している。

その緑は、入力切替のボタンについている。radio、phono、band——どれが選ばれているか、パネルを正面から見れば即座にわかる。Ramsのデザインにおいて、色は意味を持つときにだけ使う。シルバーとグレーの海の中で、グリーンはそれだけで「ここに情報がある」と語る。文字を読まなくてもいい。それがこの機械の親切さだ。

Photo: Vitsœ / CC BY-SA 3.0

考え抜かれた回路

CSV 1000はいわゆるインテグレーテッドアンプ——プリアンプとパワーアンプを一体に収めた設計だ。ただ右端に「endverstärker(終段アンプ)」と刻まれた独立した入力があり、パワーアンプ部だけを外部のプリアンプから直接駆動することもできる。単体のパワーアンプとしても使えるし、自分のシステムに組み込みやすい設計になっている。

1960年代、高音質を追求するオーディオマニアの間ではプリとパワーを別筐体に分けるのが一般的だった。一方で多くの民生品は完全一体型で、柔軟性に乏しかった。CSV 1000はその中間を取り、美しい一台の中に拡張性を持たせた。回路的に突出した革新というよりも、使い手の使い方を想像した設計だと思う。

加えて「physiologische Lautstärkeregelung(生理的音量補正)」と呼ばれる回路も搭載している。人間の耳は小音量時に低音と高音を聴き取りにくくなる性質がある。この回路はそれを自動で補正し、夜遅く絞った音量でも音楽のバランスが崩れないようにする。使い手の耳の特性まで設計に組み込んでいた。

手のかかる音楽鑑賞

使い手の耳の特性まで設計に組み込んだアンプで、自分はカセットテープを聴くことが多い。

テープをデッキに入れて、再生ボタンを押す。針を落とすのとは違う感触だけれど、やはり何かを「始める」感じがある。音が出るまでの、わずかな間。ヒスノイズが乗ったその音は、デジタルで聴くのとたしかに違う。うまく説明できないけれど、音が部屋に広がる前に、すこし準備をしているような感じがする。

古いオーディオは、手がかかる。接点が汚れればノイズが出るし、定期的なメンテナンスも必要だ。今どきの機器のようにつないですぐ使える、というわけにはいかない。でもそういう手間も含めて、なんか楽しいと思っている。音楽を聴くことが、ただ再生ボタンを押す以上のことになる。

古いアンプで音楽を聴くと、音量の上げ方が変わる。今のアンプより丁寧に、少しずつ。ノブの重さがそうさせるのかもしれない。気づけばCDやストリーミングより、音楽をちゃんと聴いている。60年前のアンプで、今夜もカセットが鳴っている。