購入したのはもう15年ほど前のことだ。ドイツ人のディーラーから買ったのだと思う。最初に惹かれたのはその粗っぽさだった。鉄のシェード、無骨なアーム、いかにも工場のための道具という印象である。工業製品として生まれたのであろうその文脈が一目で感じられた。でも手に取るとそれ以外の側面も見えてくる。シェードとネックのつなぎ方、アームのカーブの精度、スイッチの細部のかたち。近くで見れば見るほど美しいポイントが見えてくる。今回ご紹介するのはそんな照明だ。

バウハウス・デッサウ校舎
バウハウス・デッサウ校舎(1926年完成、ヴァルター・グロピウス設計)。Photo: Lelikron / CC BY-SA 3.0
バウハウスの教授陣
デッサウ校舎の屋上にて(1926年頃)。Photo: Anonymous / Public Domain
Kaiser Idell 6556 Super
Photo: Christos Vittoratos / CC BY-SA 3.0 — Kaiser Idell 6556 Super

バウハウスの金属工房が作る照明

この照明のデザインを手がけたChristian Dell(クリスチャン・デル、1893-1974)は、ドイツのヘッセン州オッフェンバッハ・アム・マイン出身の金属工芸家だ。銀細工の職人として腕を磨いた後、1922年から1925年まで、バウハウス・ヴァイマール校の金属工房の長(Werkmeister)を務めている。

バウハウスの金属工房は、当時最も実験的な場所のひとつ。モホイ=ナジ・ラースローが工房長として理論を牽引し、デルは職人として実制作を担っていたという。球、円、円柱──モダニズムが正しいと信じた幾何学形態でものを作る、その文法が徹底された場所だ。デルが後に手がける照明には、その文法が直接引き継がれていく。

1925年にバウハウスを離れ、翌年にはフランクフルトの美術学校(シュテーデルシューレ)へ。そして同年から、ノルトライン=ヴェストファーレン州ネハイム=ヒュステンにあったランプ工場、Gebr. Kaiser & Co.のための照明デザインを始めた。

「カイザー・イデル」という名前

名前の成り立ちが面白い。「Kaiser」は製造元のカイザー商会(Gebr. Kaiser & Co.)から。「idell」は、デルの名前(Dell)とアイディア(idea)を組み合わせた造語だ。最初のカタログが発行されたのは1936年のこと。そこに初めて掲載されたテーブルランプ「6631 Luxus」は、すぐに看板モデルになった。

シェードのかたちは半球。ネックは円柱。アームの動きは最小限。バウハウスで叩き込まれた幾何学の論理が、照明という実用品にそのまま着地している。シェードの内側には「ORIGINAL KAISER idell」のスタンプ。手塗り仕上げの表面、1920年代から変わらないスイッチ機構──細部が、作り手の誠実さを語っている。

同時代の照明との違い

1930年代は、照明デザインにとって興味深い時代だ。それぞれの国が、まったく異なるアプローチで「理想の光」を考えていた。

英国では1932年、ジョージ・カーワーダインが自動車の懸架機構から着想を得た「Anglepoise(アングルポイズ)」が登場。人間の腕のような自由な可動域を持つ、徹底的に機能に振り切ったデザインだ。ノルウェーでは1937年、ヤック・ヤコブセンがそれに触発されて「Luxo L-1(ルクソーL-1)」を生み出す──後にピクサーのロゴになったことでも有名な「アレ」だ。フランスでは、コンパニー・デ・ランプ(Compagnie des Lampes)が「MAZDA」ブランドで、クロームとオパリンガラスを組み合わせたアール・デコの照明を量産していた。デンマークでは、ポール・ヘニングセンが光の反射角度を科学的に計算したPHランプを、すでに1926年から出している。

英国は機械。フランスは装飾。デンマークは光の科学。ドイツ、カイザー・イデルは──幾何学だ。余計なものを削ぎ落とした形が、そのまま美になる。バウハウスの信念が、照明の形になっている。ひとつ照明にとってみても群雄割拠の時代。さまざまなデザイナーのアプローチが傑作を産み続けていたのである。

点灯時。壁に広がる光の輪郭。
消灯時。かたちだけが残る。

フリッツ・ハンセンによる継承

カイザー商会はその後姿を変えながら時間を重ね、現在は北欧家具ブランドのフリッツ・ハンセン(Fritz Hansen)が製造権を保有し、ブラック、ダークグリーン、ルビーレッドなど複数のカラーで今も生産されている。90年前と同じディテールが引き継がれているのは、オリジナルのデザインの美しさの証明だ。

粗野に見えるのに、細部は美しい。それはおそらく削ぎ落としたからではなく、必要なものだけを残したからだ。

今日もランプのスイッチをカチッと回し、机に向かって本でも読もうか。